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 * [外伝] bigNEWS の思い出 〜太平洋を渡るパケット〜
 *  Packets Across the Pacific Ocean ... Memories of my bigNEWS
 *   by uratan! 2023.10.1
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それはまだ家までIP(ダイヤルアップの)が届くか届かないかだった頃、
1994年か1995年あたりの話です、たぶん…。

個人で家に SONY の workstation bigNEWS 110万円を買った
社会人 4年目(たぶん)の私が最初に選んだ周辺機器は CD-ROM ドライブ (2倍速、
雑誌の付録CDを読むのに必要だったんだっけ？)、2番目に買ったのがモデムでした。
買ったモデムの速度は確か 14400bps (bit/secです)、当時最速だったはず…。
一応会社のアクセスポイントに電話をかけて、社内メールを見たりはできました、

が なんか物足りない…。

そんなとき、とあるアダルトな雑誌にこんな記事が載ったのです。

  「アメリカには草の根エロBBSがたくさんあって、格安でエロ画像見放題だぜ！」

雑誌名は「クリーム」だったか「SUGAR」だったか。
ええ、技術向上のため、技術力の向上のために、自分の技術力の
腕試しのために、試しにつないでみたのです。

国内通話は NTT、国際電話は KDD で、"♪ try to call 001(ZEROzeroONE)"
な頃です。国際電話は 特段 申し込み等しなくても使えました。

bigNEWS に install したお気に入り端末ソフトの kermit からモデムに繋ぎ、
ATDT 001-1-xxx-xxx します。ちょっと指が震える…。
ブツブツブツブツ… プルルルル… ガー ヒー シャーシャーシャー

  〔 おー何気にアメリカに繋がった… ちょっと感動 〕

こんな煽り文句が踊ります。

  「ようこそ！」
  「うちは CD changer を装備してて ん十万枚のそれがいつでも高速アクセス可能だぜ」

とりあえず guest で login して、BBS 内をしばし探索し、guest 用に
用意された download 確認用も兼ねた sample 画像を頂くことにします。

  〔 勉強だから、これ一枚だけ落としたらもうオサラバしよう、勉強だから… 〕

なにせ国際電話ですから時間との勝負です。

BBS 側の言い分はこうです。

  「うちは最新の高速14400bpsモデムだからだいたい 1画像 1分で落とせるぜ！」
  「しかも市内通話なら電話代はゼロだぜ」 (アメリカはそういうシステムでした)

  〔 こっちは国際電話なんだけど… 〕
  〔 そうは言っても倍はかかるだろうけど、数分なら問題ないだろう… 〕

なにせ国際電話ですから時間との勝負です。悩んでいるヒマに課金されます。

端末ソフトが kermit なので、バイナリファイルを転送するプロトコルは
KERMIT を選び、一枚落としにかかります。当時なので 640x480 の GIF で
100キロバイトとか 大きくても 300kB とか そんなもんです。

kermit を端末モードからダウンロードに切り替える操作にちょっと
手間取ったものの、勝手にネゴしてうまくダウンロードが始まりました。

  〔 さすがは kermit、よく出来てるぜ、これで数分待てば むふふふ… 〕

10分経ちましたが、終わりません。

20分経ちました…、終わりません、でも中断もできません。
                  ここまで来て手ぶらでは帰れません。

30分経ちました…、まだ終わりません。

40分…まではかからなかった思いますが、無事 download はできて
とりあえず むふふできました。

ちなみに…、bigNEWS のディスプレイはモノクロ 2値 1024x768 の液晶です。
GIF 画像はカラーパレットで同時 256色のフルカラーですので、
viewew アプリ xv の dither 表示がとてもありがたかったです。

が しかし…、ちょっと悔しい…、

  〔 これはオレの勉強が足りてないに違いない、1分で落ちるといっているものに 〕
  〔 30分以上かかるなんて何かがおかしい、太平洋を挟んでいるとはいっても 〕
  〔 モデムの Connection Established な通信速度が低いわけではないし、〕
  〔 せめて倍の 2分程度で落とせなければいかんはずだ、〕
  〔 これはもっと勉強しなければ！ 〕

とスイッチが入って／スイッチを入れて／憑き物に憑かれてしまったのです。

それからというもの、会社から帰った後メシ食って風呂入って、
その後 やり方を模索し 作戦を立てて 一枚だけ落としてみる、
という日々が続いたのです。なにせ国際電話ですから。

  〔 kermit のかわりに tip/cu なら あっさり うまくいったりしないだろうか 〕
  〔 バイナリ転送プロトコルの問題か？ XMODEM プロトコルなら 〕
  〔 YMODEM やら ZMODEM ってのもあるな 〕
  〔 … 〕

当時 internet には繋がってませんので 調べものは本・雑誌頼りで、
現物と help 見て実際に試すのが一番手っ取り早かったのです。
NEWS-OS の man page は日本語化されててありがたかったですね。

ちなみに sample 画像は数種類しかなかったので、
勉強のために その BBS に入会もしました。ええ勉強のためです。
ただクレジットカード番号を入れるのに 3日ほど悩んだのを覚えています。

挑戦は続きました。

あまり具体的には覚えていませんが、たぶん3週間くらいやってたと思います。
最終的には、なんとか一枚 2〜3分で落とせるまでに至りました。

  〔 やった！ やったぞ！ I did it !! 〕

種明かししたほうが分かり安いので さっさと説明すると…、

KERMIT プロトコルのデフォルトのパケットサイズは(確か) 68バイトだったのです。
そしてデフォルトでは、68バイト送っては ACK を待つ…、68バイト送っては
ACK を待つ…、68バイト送っては…、を太平洋を挟んでやっていたのです。
通信でのデータ化けの被害を最小限にする超安全設定だったのです。
そりゃあんさん、いくら待っても落ちないわけだ。

太平洋を地球半周とすると、7周半の半分だから片道 70msec はかかるわけで、
往復 140msec かけて やっと 68バイトじゃ 500byte/sec でっせ！
今どきケータイでも無線なのに 2,000,000byte/sec は出るというのに。
例えば むふふが一枚 300kB とすると、600sec = 10分です、
なんかそんな感じで、とにかく 30分以上かかってたのです。

結論的には、プロトコルとして XMODEM を選び、パケットサイズを
最長の 1kB に設定して、さらに 先送りモード(? 直接のACK を待たずに
次々送信させ ACK の数だけ後からチェックするやつ) を選んで
ようやっと数分まで短縮するに至ったのです。

ただ手順は少々ややこしくて、端末ソフト tip を使い download 開始まで
入力した後、tip を中断(終了だとモデムが回線を切ってしまう？)して
単体の XMODEM 処理プログラムを 上記のオプションで
起動してたような記憶が…。
  +-------------------------------
  |^Z
  |% xmodem -xxxx < /dev/tty00 > /dev/tty00
  +-------------------------------
              ... こんな感じだったような 違うような？

何はともあれ目標を達成です。達成してしまえば
試行錯誤の苦しい日々も いい思い出に…。

  〔 おれの技術力向上も著しいな、はっはっは 〕

大満足でした。憑き物も落ちてスッキリです。
それが届くまでは…。

やがて それは届きました、ええ、KDD からの請求書です。
8万円とちょっとでした、月の手取りの半分ぐらいだったかなぁ。
まあ毎晩 国際電話かけて 30分も繋いでいたわけですから。
1分100円？ ちなみに 当時 NTT の市内通話は 3分10円です。

  〔 技術力向上の対価としては安い安い！ 〕

むりやり納得させます。

うまいことに ちょうどコンビニ払いが始まった頃で、
昼間に会社を抜け出して銀行に行かなくてもよくてラッキーでした(?)。

社内 ATM でお金をおろして、会社帰りの深夜前のコンビニで、
弁当と缶ビールを買ったついでに支払います。
伝票を渡すとレジのバイトのお兄さんがスキャンして、して、して、
その瞬間 目をむいたのを今でもよく覚えています。

こんな夜中にコンビニで 8万円! その気持ちは良くわかります。
お兄さん、朝まで働いて日給 8000円ぐらいだよね、でも
私は私で「彼女が留学しているんです…」と謎の言い訳を考えてたり
してたんですよ。(なんのために 笑)

ちなみに勉強は月をまたいでいたので、翌月も請求書は届きました、
それは 3万円ぐらいでしたので まったく動じませんでした。

懸念点はもう一つありました。

勉強のため 草の根エロBBS に入会していますので会費を取られています。
確か 月1000円も行かないぐらい、数百円だったはずですが、
これ退会しないと会費が取られ続けてしまいます。

  〔 悪徳 BBS で退会できなかったりカード悪用されたらどうしよう 〕

目標を達成し憑き物が落ちたところで、退会手続きするために
また国際電話です。
ブツブツブツブツ… プルルルル… ガー ヒー シャーシャーシャー

あっさり退会は受け付けられました、なんだフツーだったか…。

でもこのままでは終われません、login できないことを確認して初めて
退会完了です、自分的には。
…なんですが、
退会が受け付けられたはずなのに、login できちゃうんです これが。

  〔 どうしたものか… 〕
  〔 手続きは即時反映されないだけなのかもしれない 〕

翌日も試します。
ブツブツブツブツ… プルルルル… ガー ヒー シャーシャーシャー

  〔 まだ login できる、ヤバイ！ 〕

そんなことを 3日ほど繰り返して、踏ん切りをつけました。
まぁ退会させてもらえてなかったらカード会社側からなんとかできるだろう、
カード会社の請求書を待とう、と。

結局はちゃんと退会はできていて会費の支払いは止まり、
私の技術力向上のためのお勉強は 無事 満了したのでした。

というわけで、私はとてもいい経験をできて国際電話代11万円は相応であった…
と信じています…今でも…。

  (記憶頼りに書いたので細かい間違いあるかもです ご容赦を) (あと諸々もう時効ということでよろしく)